こうなっては仕方がない。鯨よりも由兵衛の方が腐ってしまって、何か他のものと差換えるあいだ、ひとまず木戸をしめることになった。十五両の代物を三日や四日で玉無しにしたばかりか、その大きい鯨の死骸を始末するにも又相当の金を使って、いわゆる泣きッ面に蜂で、由兵衛はさんざんの目に逢った。十両盗んでも首を斬られる世の中に、十五両の損は大きい。由兵衛はがっかりしてしまった。」 「まったく気の毒でしたね。」 「それを聞いて喜んだのは友蔵と幸吉の兄弟で、手を湿らさずに仇討が出来たわけだ。かんがえてみると、由兵衛はかれら兄弟の恩人で、自分たちの損を受けてくれたようなものだが、兄弟はそう思わない。ただ、かたき討が出来たといって、むやみに喜んでいた。それが彼らの人情かも知れない。 ここで関係者の戸籍調べをして置く必要がある。由兵衛は浅草の山谷に住んでいて、ことし五十の独り者。友蔵は卅一、幸吉は廿六で、本所の番場町、多田の薬師の近所の裏長屋に住んでいる。幸吉はまだ独り身だが、兄の友蔵には、お常という女房がある。このお常に少し因縁がある。」 差し歯 Reiseblog & Reisefotos zu Japan. globalzoo.de
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