なんにも知らない、まして歳の行かないお米は、その美しい女をいちずに自分の仇と呪って、あわせてお時を怨んだ、取り分けて十吉を恨んだ。もう二度とここの家へは足踏みをしまいと思ったが、その位でとても堪忍のできることではなかった。彼女はこの頃の雨にぬれながら時どきに様子を窺いに来たが、懸け違って外記の姿を見つける機会はなくて、あいにくにいつもお時や十吉がその憎い女と睦まじそうに語らっているところばかりが、彼女の疑いの眼に映った。お米の胸は妬みの火にやけただれた。 きょうも自分の家の前でお時に逢ったが、お米はわざと顔をそむけていた。田圃づたいに長い堤をあがってゆくお時のうしろ影を腹立たしいような心持ちでしばらく見送っていたお米は、母の留守を幸いに女と差し向かいになっている十吉のことを考えると、総身の血が沸き上がって頭がぐらぐら[#「ぐらぐら」に傍点]して来た。彼女は前後の分別もなしに家を駈け出して、垣根越しに内の様子を覗きに来たのであった。 「そりゃあ飛んでもない間違いだ」 十吉は呆れたような、困ったような眼をみはって、しばらく黙っていた。お米は縁に俯伏したままで肩をゆすって泣いていた。 浦安 歯科 我が上の星は見えぬ
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